勉強メモ: 心房性ナトリウム利尿ペプチド (ANP)とは?

※本記事は個人の勉強したメモであり、誤った情報を含む可能性があります。また、特定の診断・治療行為やその他行動を促す、または否定するものでもありません。また、所属する組織とは何の関係もありません。

心房性ナトリウム利尿ペプチド (ANP) の概要

  • 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP: atrial natriuretic peptide)は、心房筋細胞で合成・貯蔵される28アミノ酸のペプチドホルモンである。
  • 体液量増加や血圧上昇に伴う心房壁の伸展刺激によって放出される。ANPは全身の血管抵抗を低下させるとともに、腎でナトリウムおよび水分の排泄を促進し、循環血漿量と動脈血圧を調節する役割を担う。
  • ANPは標的組織においてナトリウム利尿ペプチド受容体‐A(NPR-A、別名GC-A)に結合し、受容体に付随するパーティクル型グアニル酸シクラーゼ活性を介して細胞内環状グアノシン一リン酸 (cGMP) を上昇させることでこれらの生理作用を発揮する。

心不全バイオマーカー

  • 心不全の病態を反映するマーカーとして、血液検査でANP、BNP、またはその関連物質であるNT-proBNPの血漿濃度の測定が行われる。
    • BNPは前駆体BNPが蛋白質分解酵素によって、BNPとNT-proBNPに分離されることで産生される。NT-proBNPは、BNPと異なり生理活性を持たないが、血中半減期が長い、血清での測定が可能など、心不全マーカーとしての利点がある。
  • 心不全の重症度に応じて上昇し、治療により低下する。
  • ANPは心不全治療薬としても用いられている。

血管拡張と全身血管抵抗の低下

  • ANPは主に細小動脈・抵抗血管*の平滑筋および内皮に分布するNPR-Aを活性化し、cGMP依存性プロテインキナーゼG(PKG)経路を介して平滑筋細胞へカリウムチャネル開口を誘導する。内皮由来過分極因子(EDHF: Endothelium-Derived Hyperpolarizing Factor)依存的に平滑筋が弛緩し、NO非依存的に血管拡張が起こる。この結果、全身血管抵抗(SVR)が低下し、動脈血圧が減少することが、内皮特異的GC-A欠損マウス(EC-GC-A-KO)および過剰発現マウス(EC-GC-A-Tg)の比較実験で示されている。

*参考: 細動脈は末梢血管抵抗の主体となるため抵抗血管と呼ばれ、交感神経が興奮すると伝達物質のノルアドレナリンが平滑筋に作用して血管を収縮させ、血管抵抗が増大(血圧が上昇)します。(https://www.kango-roo.com/learning/7108/)

腎臓におけるナトリウム利尿および水分利尿効果

  • ANPは糸球体で輸入細動脈拡張・輸出細動脈収縮を起こし、糸球体濾過率(GFR)を上昇させる。
  • 同時に、ANPは、近位尿細管から集合管に至るナトリウムチャネルや共輸送体の働きを抑制し、ナトリウム再吸収を減少させる。
  • さらに、ANPは、傍糸球体装置からのレニン分泌を抑制してアンジオテンシンII・アルドステロンを低下させ、RAAS(レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系)を間接的に抑制することで、さらなるナトリウム利尿・水利尿を促進する。
  • これらの作用により、細胞外液量・中心静脈圧・心臓前負荷が低下し、血圧が制御される。

交感神経系およびホルモン系の逆調節

  • ANPは交感神経終末に作用してノルアドレナリン放出を抑制し、βアドレナリン受容体を介した血管収縮シグナルを弱める。
  • また、アルドステロンとは逆相関の関係にあり、ANP濃度が低い状態ではアルドステロン上昇と高血圧リスク増加が観察される。ヒト遺伝学的には、ANP遺伝子座rs5068多型が循環ANP上昇・血圧低下・炎症マーカー減少と関連することが大規模コホートで確認されている。

その他

マウスを用いた長期研究では、ANPまたはGC-A欠損モデルが塩感受性高血圧、心肥大、心拡大を示す一方、ANP過剰発現モデルは持続的に血圧が低下する。

一方ヒト臨床では、急性心筋梗塞後の持続的ANP静注(J-WIND試験)により梗塞サイズが約14.7%縮小し、左室駆出率の改善と心血管イベントの抑制が示された。

これらの知見は、ANPを動脈圧恒常性の主要調節因子と位置づけ、ANP類似ペプチド(例:MANP)の高血圧・心不全治療への応用可能性を示唆している。

参考、引用元

※本記事は個人の勉強したメモであり、誤った情報を含む可能性があります。また、特定の診断・治療行為やその他行動を促す、または否定するものでもありません。また、所属する組織とは何の関係もありません。

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